NPO法人 京都舞台芸術協会 – Kyoto Performing Arts Organization

京都を中心に地域の舞台芸術家同志の交流や人材育成事業、創作環境の整備を主な目的として活動を行う団体です。

*

佐伯有香(11月ダンスWS講師)×高杉征司(舞台芸術協会 理事)対談

   

 

型は安心、自由は不安

高杉:今回、「振付」でやっていただけるということで、すごい楽しみにしてるんですよ。

佐伯:それはどういう意味でですか?

高杉:ダンスと演劇で通底してる部分があるので、その根っこの部分をピックアップして演劇に寄せてやっていただくワークショップの方法が一つあって、それはとても効果的で有効なんですけど、今回は振付するという形で、その時間はダンスをうまくなることに集中して、その精度を上げるために終始する。で、終わったあとに演劇にフィードバックできることをじわじわと考えたり、実感する時間が訪れるんだろうなと思っているんです。

佐伯:うーん。

高杉:どうされました?

佐伯:いや、一つ悩みがあって、

高杉:はいはい。

佐伯:私の振付やったら、なんか身体が痛なるっていう。(笑)

高杉:えっ!?(笑)

佐伯:レッスンの中でそんなこと言われて。で、私が身体調整しにカイロ行ったら、「あれ? あの子ら言うてんのと同じ症状やな!」みたいな。あっ、これはもしかしてそういうのまで流してるというか、伝えてしまってるのかなと思って。

高杉:ああ、なるほど。

佐伯:これは良くないんちゃうかな、っていうのがちょっとした悩みなんです。

高杉:あー。でも逆に考えると面白いですね。そんなものまで伝わっていくんだ?

佐伯:伝わっていくんだと思います。そのカイロの先生に「生徒さんも同じ症状出てません?」って。ドキッってして。

高杉:へー。

佐伯:それはあんまり良くないけど、けどそれが私の動きの癖なのかなあとか。

高杉:はいはいはい。

佐伯:人に伝えてから知るというか。

高杉:面白いですね、うんうん。でも振り移すのっていいですね。自分のやってることに客観的になれるというか。

佐伯:うんうんうん。

高杉:いい表現者っていうのはもちろん客観性を持ってやられてるとは思いますけど、自分がなぜそうするのかを言葉にしたり、無自覚な部分を自覚したり、色々得るものがありますよね。

佐伯:そうですね。

で、振付なんですけど、基本、動きはなんでもいい派なんですよね、実は私。だからどういう振付にしたらいいかなっていうのを考えてるとこなんですけど。

高杉:うんうん。

佐伯:私としては何でもいいんやけど、まあ踊れたほうが楽しいやろうし、

高杉:はい。

佐伯:でも踊れなくってもいいかな、とも思ったり。

高杉:うんうん。

佐伯:結構難しがられるんで。そのへんが悩みどころというか。

高杉:なるほどね。

佐伯:・・・とか言いながら、あんまり考えずにいくと思いますけどね。(笑)

高杉:(笑) まあね、当日の現場の空気が大切ですからね。

佐伯:ねえ。おんなじ事しても全然違いますからねー。

高杉:来られる方が違うとねー。

佐伯:そうそうそう。

高杉:それはすごく面白いところですよね。一応ワークショップの直前にシラバスというか、ワークの進行表みたいなのを出していただくんですけど、

佐伯:わあっ、そんな真面目なルールがあるんですね。(笑)

高杉:そやね、僕、真面目やから。(笑) ただね、当日来て、全然違うことやってもらっても一向に構わないんです、現場判断で。講師の方に考えをまとめる時間を取っていただけたらと思ってるだけで。

佐伯:ふーん。普段やらないですけど、やってみます。

高杉:お願いします。なんか、僕がワークショップする時に作るんですよ、それ。何時から何時まで何をします。それはこんなことを意図しています。みたいなのを。主催者へのちゃんと考えてますアピールもありますけど、まあ説明責任もあるかな、と。依頼人がアーティストでない場合は見てても何のためにやってるのか分からないことも多いでしょうからね

佐伯:うんうん。

高杉:それに当日全然違うことをするにしても、マスタープランがある方がぶっ壊して飛んでいきやすいっていうのもあって。

佐伯:あ、でもそう思うと、昔はポイントになる言葉とかを書き出していってましたね。それしておくと、現場でその言葉を発した時に、さらにその先の言葉が出てきたりして、

高杉:うんうん。

佐伯:昔はそんなのが楽しかったですね。すっかり忘れてました。今はしてないですけど。(笑)

高杉:(笑)

でも今喋ってて思ったのが、型がある方が自由になりやすいみたいなことって、今回のワークの「振付」に響くところがあるなと。

佐伯:ああ、ああ。

高杉:演劇でもセリフという縛りがまずあって、さらに演出家の指示が俳優を縛っていくわけですけど、そうやって縛られれば縛られるほど俳優は自由になっていくっていうことを先人たちがおっしゃっていて、ほんとそうだなと思うんですよ。一つには。

佐伯:はい。

高杉:ダンスにおける振付は一つの縛りになるわけですけど、そういう縛られるほど自由になるような感覚ってあるんですか?

佐伯:まあ、あるかもしれないですね。高杉さんは即興もしはるけど、即興にも一つ縛りがあるでしょ?

高杉:ありますね。

佐伯:縛りっていうのは安心なんで、一つ。そこに帰ってこれるというか。振り以外全て自由とも言えるんで。

高杉:うんうん。なるほどなるほど。

佐伯:自由はちょっと不安というかチャレンジングな興味じゃないですか? だから振りがあると安心とチャレンジングを行ったり来たりできるという意味では、縛りがある方がチャレンジングになれるというのはあるかもしれないですね。

高杉:そうですね。いやー、今なんか、いいなと思いました。(笑) 縛り以外は全部自由っていう、この逆説的な、ね?

佐伯:でもそうしてません?(笑)

高杉:うん、それを体感できた時に初めてその言葉の意味が分かったっていうのはありますよね。いつでもどこでも自由でいられるわけではないんですけど、私の場合。それでも昔はただただ「ああ、縛ってくる、縛ってくる!」って思ってたけど、

佐伯:縛ってくる(笑)

高杉:でもそれが自由への儀式だと分かると途端に楽になるというか。日常でもありますもんね、選択肢が多すぎると逆に選べなくなる、とか。

佐伯:うんうん。よく「型を学べ」とかいわれるのもそういうことですもんね。バレエとか日舞とか、ダンスだけじゃなくてスポーツなんかもそうかもしれないけど、一番前に型があるから、あとは自分を、こう、隠しながら出せる、というか。(笑)

2015-11-01 00.24.33

「考えない」という技術
身体も思考も風通しよく

佐伯:ダンスってすごい抽象的じゃないですか? 意味とか聞かれても答えられない形をしながら自分を出していくみたいな。

高杉:説明的ではないですもんね。

佐伯:やってることは一緒やけど、多分役者さんとはそういうところが違うんかなぁ。具体性のベールを一枚かぶせてやってるのと、それが抽象的なのと。

高杉:うんうん。もちろんね、俳優も具体的な情報を確実に形にして表出する技術を磨きながらも、それだけでは面白くないっていうところで、意味や言葉を越えていくものというか、そういう抽象性を掴もうとする努力があるにはあるんだけど。

佐伯:うんうん。

高杉:全部コントロールしたいと思いながらも、コントロール出来ないものが立ち上がるように行動していったり。そういう抽象的だったり、非生産的だったりする、もっというと掴もうとすると逃げていくものが好きというか。

佐伯:そういうのありますよね。・・・ね、どしたらいいんでしょうね?(笑)

高杉:(笑)

佐伯:もう最近そういうこともちょっと考えなくなってきたんで、

高杉:うんうん。

佐伯:考えないっていうのも一つ技術じゃないですか?

高杉:そうですね。

佐伯:だから、前はあれこれこうしようかなって段取り立てるようなこともあったけど、もしかしてその段取りもいらんのかなみたいな。普通にこう生活してることが段取りなんかなとか。訓練は必要ですけど、そこはひとまず置いといて。(笑) なんかその方が風通しがいいというか、身体が穴だらけのほうが舞台に入って行きやすいですよね。

高杉:いや、ほんまそう。

佐伯:段取りしてるとね、一歩入るときに、そこに段差があるから、もう一個なんかしなあかんってなるんですけど、そうじゃなくてもいけそうな感じが最近はあって。

高杉:分かる分かる。僕もね、ほんまそのまま入っていきたい感じがあって。でもこの舞台の上と下の境界って何なんやろってすごい思います。さあ演じるぞ、って入っていっても、そういう力みやフィルターがあるとどうしても触れられない柔らかい部分がほったらかしになるようで、やっぱり風通しよく、楽に、言うたらそのまま入っていきたいんやけど、だとしても演じてる状態というものは確実にあって。

佐伯:うんうん。

高杉:なんかその境界を見定めようと目を凝らすとどっかいって、でも演じたり鑑賞したりしてるとやっぱりふわっと境界があって。佐伯さんはその境界についてはどう考えてるんですか?

佐伯:うーん。私はそんな考えないようにしてるんで、うーん。・・・例えば身体に戻して考えると、さっき穴だらけとか風通しとか言いましたけど、身軽さみたいなものが必要で、多分思考にも身軽さが欲しいので、

高杉:欲しい!(笑)

佐伯:(笑)

考えてると、知らず知らずのうちに重くなる、動かなくなるので、それをやめるために多分考えないというのがあるんですね。

高杉:いやー、そうやね、ほんまに。

佐伯:ダンサーでも思い悩んでるのが作品にとっていい時期っていうのも絶対あるし、重さが出てるなっていうか。でもそれを通って身軽になれれば、その重さは知ってるので重くなれるけど、重いと軽くなるのはすごく難しいっていうのがあるんですよね。それは地球に住んでる以上、重力からは逃れられないってことなんでしょうけど。だからいつも軽い方を自分の中に意識として置いておくと、その方が動きやすいっていうのはなんとなくありますね。

高杉:うんうん、なるほどね。

佐伯:その質問でしたっけ?(笑)

高杉:大丈夫、大丈夫。かすってる、かすってる!(笑)

佐伯:かすってる?(笑)

高杉:「境界についてどう考えてますか?」に対して「考えてません。なぜなら〜」っていう話やから。

佐伯:かすってますねー。(笑)

 

振付の中で自由になる

佐伯:振付でこういう(頭の上にひょいと手を置く)のがあったとして、でも今日はちょっとこうしてみようかな(指の形を少し変える)っていうこともあって、あるいはもっと大胆になってきてこういう感じ(手が身体の遠くを通って頭上へ)になるとするじゃないですか?

高杉:はい。

佐伯:もう最初と全然ちゃうやんみたいなことになるわけでしょ?

高杉:うんうん。

佐伯:でもそれも同じ振付といえば同じ振付で、同じフィルターといえば同じフィルターといえるんですよ。だから振付と思ってかっちり考えてても実はゆるいし、多分演出の人は自分の表現にして欲しいって言うと思うんで、自分でこれはちゃうなと思ったら全然遠くにいけるってことですよね。

高杉:ああ、そうそうそう。そういうこと!

俳優ってやっぱり縛りがきついんですよ。台本のイニシアチブがまず強くって、そこに演出からの縛りも当然入って。でもその台本のフィルターとか演出家のかけたフィルター越しにどう見えてるかを気にするだけじゃなくて、自分で色んなフィルターをかけてやることがその中で自由になっていく方法として一つあるんですよね。そういうことがワークショップを通して感じられたら、俳優さんは現場で活かしていけるんじゃないかなって今のお話を聞いてすごく思いました。

佐伯:そうですね。ほんで何の動きでもいいって言ったのはここに繋がってくるんですけど、振りつけても結局おんなじ事できなくてもいいんですよ。自分の身体で実感したもののほうが大事やし、できないっていう体験もいるとは思いますけど、その人が身体で感じたものが振付になっていくというか。それはテクニックとか踊る楽しみとはまた違うとは思いますけど、でも自由になるという意味ではすごく意味があると思います。

高杉:なるほどね。

佐伯:当日は二人組になって見合いっ子しながら、補い合いながら振りを踊りすすめてもらおうと思ってます。分からないとこ聞いたりして助け合いながら。最終的に二人で同じ振りを踊ってもらおうかなと。

高杉:はいはい。人数が奇数だったら最悪 僕入って一緒に踊りますんで。(笑)

佐伯:すごい楽しみです!(笑)

撮影者 須藤崇規dots『カカメ』
撮影:須藤崇規/takaki sudo

 

 - 2015, 事業関連, 俳優のためのダンスワークショップ

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