7/19(月)にオンラインにて「劇場にいる時間を8時間以内におさめる試み」についての報告会を実施しました。
当日はゲストにあごうさとしさん(劇作家・演出家/THEATRE E9 KYOTO芸術監督)、山口茜さん(劇作家・演出家/トリコ・A/サファリ・P主宰)をお招きしました。
この企画は、4月にTHEATRE E9 KYOTO(以下、E9)で行われたショーケース企画「Continue」において、劇場での作業時間を8時間以内におさめたスケジュールで公演を行ったことについて、どのような経緯でこの試みが始まったのか、結果的に現場でどのようなことが起こったのか、などを報告するために設けた場でした。
「Continue」公演主催であるE9の芸術監督のあごうさん、協会理事であり当公演の舞台監督を務めた北方が当時を振り返りながら、この企画には関与していない外からの視点として山口さんから随時質問や意見をいただくという形で、劇場での時間の使い方にどのような選択肢、可能性があるのかを話しました。
「Continueでは、毎月参加団体とミーティングをしていて、この状況下でどうやって上演をするのかという話から、
これまでのような負担を軽減した上演の形があるのではないか?という議論があった。
加えて、コロナ禍になり、劇場業務が通常より忙しかった。金銭的事情は悪くなるのに、
処理するべき情報量が爆発的に増えた。劇場の事務局も疲弊していった。そのため劇場としては、スタッフの労働条件を総点検する必要を感じていた。
その中で、劇場での労働時間を8時間に設定してみたら、なにか良い面が出てくるのか、
それとも新しい課題が出てくるのか、1度やってみようと思った。
Continue参加団体へ相談したところ、快諾してくれた。
あとは、個人的な記憶として、何十年も前に俳優で公演に参加していたときに、初日の袖中で共演者と、
『もうすぐ本番始まるけど、なんで初日が体力的に一番しんどいんでしょうね』という話をしたことを不意に思い出して。
いい状態で俳優が舞台に立つということも同時に考えていけるかな、ということもあった」(あごう)
・スケジュールを組むにあたって
前提として、今回の企画は60分程度の作品が4団体、計4時間分の作品が上演されるというものでした。
そのため、照明・音響はそれぞれ4団体分のプランニングが必要でした。演出的に、音響は常設のプラスアルファくらいの仕込みで対応できましたが、照明に関しては仕込む物量が多く、
「8時間ではかなり厳しいです」と言われていました。
スタッフ内で相談した結果、仕込み日には照明作業に8時間(休憩1時間含む)連続して渡し、そのあとにサウンドチェックの時間を設ける形をとりました。
音響スタッフはそれにともなって入り時間を少し遅らせて、労働時間としては8時間におさまるようにしてもらいました。
舞台監督は最初から最後までいなければならないので、9時間(1時間休憩)劇場にいる形となり、スケジュールを組む段階で、舞台監督のみ8時間にはおさめることができませんでした。
・リハーサル、本番、バラシ
1日1団体リハーサル、という形で進行しました。
リハに関しては、1団体のみ、手直しに時間がかかり、団体自体は8時間内で退館しましたが、スタッフは、20時ごろの退館(10時間滞在)となりました。
本番やバラシは問題なく8時間におさまりました。
・拘束日程
今回は8時間におさめるという試みと新型コロナウイルス対策ということもあり、1日1団体のリハーサルでしたが、それに伴い、スタッフの拘束日程が長くなりました。今回はバラシも含めて全部で10日間です。
1日あたりの時間は短いですが、10日間連続して劇場にいるので、その点はバランスが難しいところだと感じました。
・事前の話し合いについて
参加団体については前述したように、定期ミーティングにて了承を得ていました。
山口さんより「照明スタッフと音響スタッフとは8時間が可能なのかというのはどういう検証をしたのか」という質問をいただきました。
これについては、舞台監督である北方も含め、各スタッフに「今回は8時間の取り組みで行います」という公演制作からの説明があり、それぞれ了承の上で引き受けています。
ただこの試みの賛同者として、舞監としてもこの了承をきちんと改めて各スタッフに確認をしていなかったので、そこはすべきことだったと反省しています。
スタッフとの話ではやはり仕込みの時間が議論になりました。前述したように照明スタッフからは「8時間は厳しい。別にわたしは10時間とかでもかまわないのだけど・・・」という話もあったのですが、「なんとかやってみましょう」と試みに寄り添っていただきました。
音響スタッフからも「自分の時間を8時間に収めるためには遅入りですね」と意見をいただいたりしました。
山口さんより、
「上手くいったらこんなことがあるよということが見えているのと見えていないのとでは結構(プロセスや結果が)変わったのではないかな」というコメントをいただき、そのとおりだなと思いました。
北方の中に「とりあえずやってみよう」が強すぎた結果でした。実践する前にメリットとデメリットを議論すべきだったと振り返って思っています。
> 一日8時間ということですが、普段の長時間小屋入りに比べて、身体的や精神的にどんな変化がありましたか?(ポジティブでもネガティブでも)
家に帰ってごはんをつくり、ラジオを聞くという普通の生活ができました。
いつもは劇場から帰ってきてお風呂に入ってすぐ寝て、朝起きたら劇場行っての繰り返しで、日々のニュースにも触れることなく社会から離れている感覚だったけど、スーパに寄って献立を考えて、ご飯をつくり、ラジオを聞いてニュースだけでなく最近流行っている音楽もきこえてくる。「生活」をしているなという感覚を得られて嬉しかったです。
あとは友人とオンラインでゲームをしたり、電話をしたりと普段劇場入りしているときではできない、人と繋がれる時間があったこともわたしは嬉しかったし、1日の終わりにリラックスできました。
ネガティブ、とは少し感覚が違うのですが、8時間におさめるぞということで急ぐところは急がないといけない場面はありましたね。(北方)
>劇場管理者の話ではなくて、劇場使用者(劇団)の話をされているのでしょうか?その辺りは、あまり意識的に整理・区別されていないように感じます。
今回に関しては、劇場使用者の視点です。北方は劇場のスタッフではありますが、今回は団体の舞台監督として関わっており、いわゆる劇場管理業務は行っておりません。
報告会中に話せなかったこととして、劇場管理者の働き方についてもいつか当事者の方にお話をきいてみたいと思っています。たとえば、10時~22時と団体が12時間利用するとなると、劇場管理者は団体の来る1時間~30分前には劇場に来ているし、退館後も30分~1時間ほどは締め作業があります。
これは劇場の規定や雇用形態、規模などによって様々だとは思いますが、E9の場合は、プラス前後30分ずつなので、団体が12時間利用の場合は劇場管理スタッフは13時間劇場にいることになってしまいます。このあたりも問題・課題としてあるな・・・と考えています。(北方)
>先日、お寿司『桃太郎』の東京公演を拝見しました。他にも、神戸db系など、振付家・演出家によるヒエラルキーや搾取についての問題意識を感じます。関西の現場でそうした動きを感じます。なぜなのでしょうか?
現場からの自己批判が作品に反映しているケースがかなりあります。少なくとも、東京ではそうした表現はあまりありません。
こちらについては、北方、あごうさん、山口さんともに考えたことのない視点だったので、きちんとお答えができませんでした。
これからそういった視点でも作品をみてみようと思いました。
1 ご意見・ご感想をご自由にお書きください。
・自分がもし今後そう言う事で仕事するとしたら時間はやはり全体的な意見があると思いますのでその創作内容によると思います。もっと良いものをやりたいと言うのであればお金とか時間とか関係なくやりたいです。
いずれにせよやって良かったとか思えるかどうか?私はいつもプラス思考な人間なのです。
長時間でもやって良かったかどうか?です。
・私自身はどちらかというと、働き過ぎてしまうタイプかもしれません。
それをすることで、同じ現場、同僚等に、同じ水準を求めてしまっているのではという危惧も感じます。
ただ、それぞれの捉え方、それぞれのやりたいことが大枠で認めてもらえるといいなとは思いました。
2 あなた自身の理想の「働き方」があれば教えてください。
・演劇はあまり経験はないですがつい最近出演者の裏方のお仕事をしました。
短期ですがその時は朝9時に集合して終わったのは夜の10時半頃でした。例え長時間働いても良かった面と全然そぐわない部分がかなりありました。はっきり言って「働き方」は決まっていません。
むしろ決まってない方が私は良いもと感じています。キャリア、スキル、経験など
色々な面はありますがいくら頑張っても成果が出なかったり、納得いかない部分はあると思われます。それでもそう言う環境に携わっていきたいとかは人それぞれだと思われます。
・働き過ぎは無能の表れと自分でも思っている節はあるので、もっと効率よく仕事が出来たらというのも感じています
ご意見をいただきありがとうございました。
今回、ライブ配信中には34人の方が見てくださり、
7/31まで公開していたアーカイブ配信も含めると143回の視聴回数でした。
ご覧いただきました方、改めてありがとうございました。
(文責:北方こだち)