2022年9月5日、俳優のためのワークショップ企画「”あなた”と”表現”を生かす『からだの使い方』──アレクサンダー・テクニックにできること 2022」を開催しました。
本企画は一昨年より実施している同名ワークショップの第3弾。舞台に立つ俳優が「からだの使い方」を学ぶことの意義やその具体的な方法にアレクサンダー・テクニック(以下AT)の手法を通して迫り、自分自身や表現のまだ見ぬ可能性にアプローチするものです。
講師は昨年に引き続き、「アレクサンダー・テクニック・センター スタジオK」主宰の芳野香先生。1994年にACAT(The American Center for the Alexander Technique)で日本人として初めて全米公認資格を取得され、個人レッスンや大学の授業、ワークショップなど、とても豊富な指導経験をお持ちです。
これまでの2回は新型コロナの感染状況を考慮しオンラインにて行いましたが、今回は初めて対面で実施することができました。定員10名分を超えるたくさんのお申し込みを頂きましたが、直前にキャンセルがあったため最終的な参加者は会員4名・非会員5名の計9名となりました。また、協会スタッフとして、インターンシップ生も2名参加しました。
今回のテーマは「『声』で届ける・『声』を届ける」です。「声」は、舞台に立つ俳優にとって最も重要で、かつ最も難しい問題のひとつといえると思います。今回は、「声」について参加者それぞれがこれまでにしてきたことを整理して生かしながら、安定した俳優の実力につながる「声の出し方・使い方」に迫ることを目指しました。
ワークの最初は「準備」の時間。参加者の皆さんが本番や稽古の前にいつもどのような準備をしているのか、という話から始まりました。仰向けになって身体をひねる動きをしたり、ランニングをしたりと人によって様々ですが、そのクオリティを上げるために具体的にはどうすればよいのか、芳野先生の指導のもとに検証していきます。一口に身体をひねるといっても、動かす場所や角度、タイミングなどを細かく変えることでまったく違う質の動きになります。芳野先生がからだに触れて正確な箇所を正確なやり方で動かすと、たくさんの参加者が「おお」と声をあげていたのが印象的でした。見た目にも動きがゆったりと大きくなっていましたし、本人もより心地よい、あるいは効果があると実感している様子でした。
その後も、芳野先生が持ってきてくださったたくさんの骨格模型などを使ってさまざまな動きを検証する時間が続きました。舞台で使える声を出すためには、からだをリラックスした状態に保つことが不可欠です。そのためには、「骨の構造」を使ってからだを支え、筋肉を余分な負荷から解放することが有効になります。今回のワークは、自分のからだを本当の意味で「使う」ための理解を深めていくことで、結果的に声に対する理解も深まっていく、という内容だったように思います。最後には、発声や呼吸を楽にするマッサージを行って終了しました。
質疑応答の時間は特に設けませんでしたが、ワークの途中ですでに参加者からたくさんの質問が出ましたので、声だけでなく身体や演技に関する様々な問題について全員で共有することができました。多数の人々が参加し、対面で行うワークだからこその成果が得られたのではと思います。
とても充実したワークでしたが、テーマの大きさゆえに2時間のワークを1度実施しただけでは手の届かない部分も多く感じました。今回のような学びを何度も積み重ねて行けば、ひとりひとりの表現の可能性は相当に広げられるのではと思います。参加者の皆さんからも「この続きを受講したい」との感想を複数いただきました。来年度も実現できるのであれば、内容・時間・会場等の各条件をよりグレードアップしたものにできるよう検討したいと考えています。
(文責・筒井加寿子)