NPO法人 京都舞台芸術協会 – Kyoto Performing Arts Organization

京都を中心に地域の舞台芸術家同志の交流や人材育成事業、創作環境の整備を主な目的として活動を行う団体です。

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<出演交渉、スタッフ委託交渉時>あとで揉めない為のチェックリスト

      2020/03/16

「急に役を下ろされた!」
「稽古に全然来てもらえない。」
「仕事の範囲、量が、後からどんどん増やされていく…」

そんな創作現場でのトラブルを未然に防ぐ為に以下のことがとても有用です。

1)事前に<重要な事柄=トラブルになる可能性の高い事項>について双方で話し合い、とり決めておくこと。

2)とり決めた約束事を明文化し記録しておくこと

このことは、京都舞台芸術協会事業「舞台芸術家のための法律セミナー」(2018)「舞台芸術家のための契約書作りWS」(2019)のなかで、ご協力いただきました中村弁護士から何度もご指摘がありました。

出演やスタッフ業務委託の交渉時、あるいはカンパニーへの所属を決めるときなどには、「どういう条件で?」「どんな範囲の仕事をするか?」…等、できることなら契約書を作成してとり交わすことが望ましいでしょう。ただ「『契約書作成』って実務的にも心理的にもハードルが高い」と感じる方も多いかと思います。そこで協会では「本式」であるところの契約書から抽出する形で「出演交渉やスタッフ業務委託交渉時に取り決めておくべき項目リスト」を作りました。ご自由にダウンロードしてください。舞台芸術に関わる主催側、受託側共にご活用いただけると嬉しいです。

上記のリストに挙げた項目を取り決めしておくことで不要なトラブルを避けられる可能性が高まり、また不幸にも「揉めて」しまった時にも解決の糸口になる、と考えます。またその「約束事」はメールなどを利用して記録に残る形にすることをお勧めします。たとえ「口頭で交わしたもの」であっても法律的に「契約」として成り立つ、のですが「本当にそう約束した」と立証するのは時に困難です。ヘタをすると「言った、言わない」の水掛け論にもなりかねません。例えば実際に会って話し合ったケースでも、決まった内容は箇条書きにして「自身の備忘の為に」とメールをしておくことはとても有用です。

以下、リスト項目について補足説明をします。

・誰と誰との取り決めなのか?

契約書でいえば「甲、乙」にあたる部分です。交渉した相手のお名前を記録しておくのはもちろんのこととして、その方がその取り決めをする「裁量」を持っているのかどうかも確認してください。いくらしっかりともれなく取り決めをしていてもその土台となる「相手」が適正でなければ無意味になりかねません。例えば、企画者が、とある俳優さんと意気投合し「こういう条件で出演してください」「わかりました!」と話が進んだとします。しかしこの俳優さんの所属する劇団のほうからNGが入るケースがあります。「勝手に使ってもらっては困る。」「その条件では受けられない」など。つまりこの場合は当該の俳優さん個人に自分のスケジュールを決定する裁量がなかったということになります。
 また別のケースで考えますと「多くの団体が参加するような大きなイベント」においては交渉している相手が実際に主催者ではなく、単なる「渉外担当」を請け負った人である可能性もあります。その場合、その「渉外担当者」と、いい具合で話を詰めていたものが、何かの拍子でその方が担当職を降りて、別の人物が新たにその職についたりした場合、最悪「また一から」ということにもなり得ます。

・公演の概要

日時、会場、時間、ステージ数などについて可能性を確認しておきましょう。またいわゆる「仕込み」「バラし」(設営と撤去)の期間の、拘束日、時間帯。そして作業人員として働くのかどうか?なども可能な範囲で事前に取り決めておくべきでしょう。

・稽古(参加)期間

開始日時、いつから始まるのか?に関して確認が必要です。主な会場の場所(遠方の場合は交通費なども相談する)、時間帯などについても双方確認した上で「稽古参加予定」を双方で共有しておくことが望ましいでしょう。技術スタッフに関しても、仮に「何かしら新しいことをしてみたい」あるいは「スタッフ起点の発想によって作品をドラスティックに変形、展開してゆきたい」と演出、主催側が考えている場合、通常よりも頻度濃度ともに高く稽古場に出向いていただいて、その場で意見交換をするというようなことが必要かもしれない。そういったことも勘案しどの日程で稽古に参加するのか詰められる範囲で詰めておいた方が良いと思われます。

・仕事内容

演者もさることながら「スタッフ業務請負時」に気にすべき点。「ここまではやる」「これとこれは劇団さんでやってもらう」など、その時点で見えている範囲については極力細かく詰めておいた方がよい。いずれ創作を進める上で「新たな仕事」は発生する。その「新しい仕事」に対応(したいと思うなら)するためにも現状見えている仕事についてはクリアーにしておき、「今後追加されるかも仕事」についても可能な範囲で話し合いをしておくべきでしょう。

・報酬

金額。あるいはチケットのキックバック(その割合や上限枚数など)。招待券の発行可能枚数や、物販の可否。また源泉徴収されるのか否かなど。とりわけ「支払いの期限」に関して取り決めしておく方がよいでしょう。助成金の入金などとの関係で支払いが遅くなるケースは多くあります。

・食費

主に会場(ホール)入り後について。「普通はこうだ」「前回はこうだった」ということにとらわれずに、面倒でも確認を。

・交通費

意外とバカになりません。何度も通う稽古場が遠方だったりすると結構な金額になることがあります。本番期間はもちろんのこと、稽古の期間、頻度、場所、などと合わせて、必要な範囲で取り決めておいてください。

・宿泊費

多都市公演になった場合。あるは遠方より参加をお願いした場合など。実際の宿泊施設を用意、予約まで主催者がするのか?あるいは「宿泊費」として用意した金額を主催者側が支払い、実際の予約、その際に出た差額の裁量は「演者、スタッフ」に任されるのか?など。

・宣伝協力

宣伝材料の提供や、より積極的に自身のSNSでの拡散。また稽古場の写真などの肖像権は放棄する、など

・再販時の権利

上演ビデオの販売や配信などについて。肖像権の放棄など。

・公演、稽古スケジュールの変更

「公演スケジュールの変更」はレアなケースだと思われますが、演者は「本番のステージ数×〇〇円」という形で報酬が設定されることが多く「追加公演をする可能性について、又あった場合の報酬に変化があるのかどうか?」については話し合っておいた方がより安心かもしれません。
「稽古スケジュールの変更」は実によくあります。よっぽど「短期間で集中的に制作する」のでない限り「変更は認めない」ということは考えにくく「変更があった場合どうするか?」=病欠など急遽不慮のNGの場合の連絡方法や解決方法を詰めておくと良いでしょう。また「今後、仮に稽古期間が重なるオファーが来た場合、その企画と同時進行はありかNGか?」ということも報酬などとの関係で必要であれば話し合っておくべきです。報酬との兼ね合いという意味では「自分の出番がないシーンの稽古日は休みにしてもらって、なるべくシーンごとに稽古することで稽古での拘束日数を減らして欲しい」とか、あるいは逆に「出番がない日にも来てもらって他の欠席の俳優の代役をやってほしい」というような希望は「基本姿勢」だけでも双方事前に伝え合っておくことで「こんなはずじゃ…」という事態を回避しやすくなります。とはいえ、稽古のスケジュールは実際に進めていかないとわからないことが大部分です。その都度柔軟に対応していくためにも、「どちらがどういう形で提案していくのか?」「その提案を拒否できるのか否か」「提案を飲んだ場合、報酬額の変更の交渉を改めてもつのかどうか?」など、想像の及ぶ範囲で話し合っておけることは話し合っておいた方がより良いと思います。

・契約解除できる要件

どういったときに、約束事を反故にできるのか?つまり「もう降りた」や「もう使わない」と言える条件について。またそうなった時にどういう補償がされるのか、されないのか?

・公演の中止、延期

様々な事由で演劇の公演はキャンセルされることがあり得ます。(今般のコロナウイルスもしかり)そういった場合に「ギャランティーの支払いはどうなるのか?」「賠償金など。」についても、可能であれば話し合っておくことが望ましいでしょう。細かくなりますが公演の中止延期が以下の[確定した時期][事由]いずれにあてはまるのか?それぞれに対してその対応を、双方で取り決めておかれることをお勧めします。

事由  
a)自然災害事由(台風、疫病など)
b)創作活動での事故等事由(稽古場での怪我、仕込み中の事故など)
c)創作活動外での乙(出演者orスタッフ)が責任を追うケース
d) 創作活動外での乙以外のものが責任を追うところのケース  

時期
あ)稽古開始前
い)稽古期間中盤
う)本番直前

・事故補償

稽古場や劇場での本番、リハーサル時に怪我や事故が起こった時、どちらがどれだけ保障するのか?

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上記の項目について、なるべく多く、なるべく詳細に、取り決めがされること、そしてそれが記録されること。によって舞台芸術の創作の場での、トラブルが減少するのではないかと考えます。そのことを強く望みます。
 最後の三点(契約解除要件、公演中止延期、事故補償)に関しては、その扱いがとても難しく思います。この点に関しては主催者が「イベント保険」に加入することで大きく状況が改善するように思います。しかしながら当然そのためにはその保険の掛け金をコストとして引き受けなければなりません。公演の規模、内容、時期(台風などの影響)を総合的に鑑みて、必要であれば積極的に利用していくべきではないでしょうか?
 言わずもがな上記リストは一例です。「このような取り決めをしたならばトラブルは決して起こらない」ことを保証するものではありません。「こういう項目、視点が重要じゃないか?」というご指摘ご提案を歓迎します。京都舞台芸術協会までご連絡ください。そのようにして今後、このリストが現状に即してブラッシュアップされていくことを望みます。

 - 事業関連

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