NPO法人 京都舞台芸術協会 – Kyoto Performing Arts Organization

京都を中心に地域の舞台芸術家同志の交流や人材育成事業、創作環境の整備を主な目的として活動を行う団体です。

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桑折現(10月ダンスWS講師)×高杉征司(舞台芸術協会 理事)対談

      2015/10/25

表現者の顔について

桑折:今回のワークをやるにあたって俳優の技術とか意識っていう話以前に、もっと表現そのものっていう話もあるなと思ってるんです。

高杉:・・・あるね(笑)。桑折くんにはそこへのおもしろさを実は感じていて。ダンス作品の演出もすれば演劇の演出も、何やったら俳優もやるし。最近はそういうジャンルにとらわれない作品づくりをしてて。11月にはコンサートを作品として演出するわけでしょ? 普段喋っててもジャンルにとらわれてないのがすごい面白くて、なので桑折くんが表現そのものに対して感じている感覚をそのままワークショップにぶつけてもらえたらとは思うのよ。

桑折:そうなんですよね。ちゃんとワークショップやろうと思えば思うほど窮屈になってきたりするんですよね。

高杉:(笑)

桑折:まあちゃんとやるって何なんだってこともあるんですけど。

高杉:まあ分かるよ、言ってることは。

桑折:あんまり素直に僕の感覚をぶつけすぎてもポカーンとなるかな、とか。

高杉:そうかもね。そこはあるテクニックが必要やと思うよ。

桑折:そこは少し考えてますね。まあ受講される方がいかに受け身にならないような仕掛けをつくれるかですよね。

高杉:そうだね。で、ワークショップタイトルにある「顔について」って、すごい面白いんだけど。

桑折:はい。

高杉:表現において、人間が舞台に上がって見世物になる以上、顔は避けて通れないもんね。

桑折:そうなんですよ。

高杉:でも割りとワークショップなんかでは避けて通ってきたところがあって、それを取り上げたのがいかにも桑折くんらしいなあと思って。

桑折:そうですか?

高杉:えー、で、どうすんの、これ?(笑)

桑折:いや、あのね、やっぱり顔はね情報量が多いんですよ。

高杉:多いね。

桑折:とにかく。それに観るの顔なんですよね、結局。顔に集約させない技術ももちろんあるんですけど、最初にぱっと観るのは顔ですから。なんかね、美的な何かっていうことでは全く無くて、単純にその情報量が多いっていうことへの自覚と実際自分がどう見えてるかの実験ができたらなと思っていて。
具体的に言うと、例えば人に顔の写真を撮ってもらって、ふとした瞬間とかの。それを自分で見てみる。シンプルですが、それだけでも有効なんじゃないかと思って。ということと、例えば10個位状況を設定して、何もしなくていいからその状況をイメージして立ってもらって、それを写真に撮ってもらう。その状況ごとの自分の微妙な表情の差異を自分で見てみる、とか。無表情とは一体何なのか、とか。そういうことを客観的に観るだけでも何かちょっと変わるんじゃないかと思って、自意識のあり方が。

高杉:うんうん。まさに自意識に直結するもんね。

桑折:そうそう。

高杉:なるほど。面白いね。顔の問題って本当に難しくて。表情ってある程度はつくれるけど、それっぽく筋肉で作った表情ってなんだか気持ちが悪くって。僕的には。だから表情が自然とでてくるように流れを作っていく作業が必要なんだとは思うんだけど、それに終始すると客観性に乏しくなるもんね。どんな表情になっているのかの自覚も必要だし、そこに筋肉をつかっての表情作りもある程度必要かもしれないし。もちろんそこに演出家も介入していくわけだけれども。

桑折:ほんとに細かくコントロールするべきだと思うんですよ。僕は諦めてますけどね。(笑)

高杉:(笑)

桑折:でもそれに気づいて欲しいというか、無理に表情を作って演技をするというようなことから解放されて欲しいな、と思うんですよ。言ってること矛盾してるかもしれないけど。

高杉:うんうん。力技の表情作りからは解放されて欲しいけど、自分がどんな表情になってて人にどんな印象を与えているのかの客観性は持っていて欲しいっていうね。

桑折:そうそう。

高杉:大事なことやと思います。

桑折:「ダンスワークショップ」じゃないですけどね。(笑)

高杉:(笑)

 

日常と虚構にまたがる自意識

桑折:自意識ってね、自分がこう見られたいっていうエゴイスティックな自己像みたいなものだと思っていて。誰しもあるんですよ、自分がこういう人でありたいっていうことと現実との間で生きてるので。それがでも、俳優という仕事をするときには、その俳優誰々さんの自意識、こう見られたいっていう意識は全く意味が無い、というか。その役の像に自分を近づけられるかを問題にしているわけですから。僕はこうじゃないからそんなことはできません、言えません、みたいなことがあって。それは俳優の仕事にとって邪魔でしかないですよね。

高杉:そうやね。役との摺り合わせはそうやって自意識との戦いになっていくけど、、、なんか自意識ってもっとどうでもいいところでも遺憾なく発揮されるのが残念だなって思うんよね。例えばダメ出しされると腹を立てる、とか。

桑折:ああ。

高杉:それは作品づくりのもう一歩手前での障害になるんであって、経験のある俳優ない俳優それぞれのレベルでそれぞれの問題があると思うのよね。

桑折:それで難しいのは、そういった自意識のことをこういうワークショップで扱うのはどうなんやろうっていうことなんですけど。

高杉:もはや演劇のトレーニングではないからね。

桑折:ないんですよね。うーん。どうなんですか? このワークショップってダンスからのアプローチだから身体的感覚の刷新とか客観性みたいなことでやっていくわけですよね?

高杉:うん、そうだね。勿論講師の方によってアプローチや着眼点は違うんだけど、なんかね、それでも結局僕が求めてるのは「思考」なんじゃないかと思うんだよね。

桑折:うん。

高杉:身体経由の気付きがあったとして、それを演劇の実践に転化していくには演劇的思考が必要なんであって。その思考訓練をワークショップの中でやるわけじゃないけど、個々がその先思考していくための種を撒く場であるといいなあと。

 

 

セリフをイメージする/空間をデザインに置き換える

高杉:セリフを吐くことの特異性って、ある種「魔的」だなと思うのね。

桑折:と言いますと?

高杉:例えば訓練されたダンサーさんにセリフを言ってもらって、普通に喋ってる時はいいんだけど、すごい大きい声で、とかすごく早く、とか負荷がかかってくると、首がガックンガックン動いたりするのね。

桑折:はい。

高杉:それは俳優的訓練の問題なので動いてる事自体はそんなに驚きはないんだけど、「動いてるよ」って言うと「えっ、動いてました?」って答えが返ってきたりして。訓練されたダンサーからも身体のコントロールだけでなく動いたことへの自覚まで奪い去ってしまうセリフの恐ろしさを感じてしまう。

桑折:へー。確かにセリフ問題ってありますね。

高杉:あるよね、セリフ問題(笑)

桑折:セリフを扱うって、ものによるんですけど、イメージを扱うってことだと思うんですよ。セリフそのものというよりは、それを放つことによってイメージされるもの、あるいはそのセリフが書かれた時に作家がイメージしているもの、二つあると思うんですけど、そのイメージの中間にいるのが俳優だって言う認識があって、そういう意識をもっている俳優が少ないんじゃないかと。

高杉:ふんふん。

桑折:イメージすることの弱さをすごく感じていて。そのイメージができればセリフ回しが少しくらいたどたどしくても伝わると思っているんです。セリフによってコントロールが困難になる身体の状態っていうのがあって、そのセリフにはイメージがあって、そのイメージが身体を動かすんであって、何が言いたいかというと、そのセリフと身体は分けて考えたほうがいいと思っているんです。

高杉:ふんふん。

桑折:セリフを喋ること、それに加えてイメージに負荷をかけていくと、身体はどんどんコントロールできなくなっていく、けど同時に身体は身体で別のコントロールをしていけば、また別のことになっていくんですよね。そこの可能性はあると思います。

高杉:そうだね。

桑折:例えば、身体とセリフの時制が違うとかめちゃめちゃ難しいんですよね。

高杉:難しいね。

桑折:常に思考が二つあるっていうか、そういうことの訓練ができれば意味があるのかなとは思いますけどね。

高杉:すごく意味があるし、それは訓練次第で獲得できるからね。

桑折:そうですね。もう誰かがやってるかもしれないですけど。

高杉:マルチタスクや色々ある細かいタスクの分離をしていくっていうのは幾人かの講師の方にそれぞれの方法でやっていただいているけど、セリフは扱ってないんじゃないかな。まあどっちにしろいくつかのタスク、ここでは身体とセリフで考えるけど、それらは絶妙な連動が必要で、でも切り離して同時に扱える技術があると新しい表現やもっと色んな事ができて、それができるようになると不思議と連動する力もぐっと上がるっていうことが起こるよね。ああ、何が言いたいかって言うと、そのように進めてくださいってことです。

桑折:わかりました(笑)。

高杉:身体とセリフの分離によるマルチタスクと顔や表情を使っての自意識や客観性の問題。

桑折:あとは、空間への意識ですね。そこに存在するということへの意識について考えられるワークができたらいいなと思うんですよ。

高杉:うん。

桑折:要は自分が質量であるっていうことですよね。その質量をどう感じるのかっていうことや、いかに客観的に観るかっていうことだったりすると思うんですけど。まだどうやるかは考えてないんですけど。

高杉:セリフは意味があって、意味が感情を動かすから、必然俳優は自分の内側と向き合うことが多くなりがちだけど、空間っていう外へ向けていくのは重要だろうね。

桑折:うん。極端に言うと一回デザインに置き換えるっていうような作業なんですよね。立体的なデザインに置き換えるみたいな作業かな。それができる俳優とかダンサーっていいんですよ。あんまりこう感情とか気持ちでやり過ぎるとおかしなことになっちゃう。

高杉:うんうん。

桑折:その上に何を乗せていくのかっていうことが重要な気がします。

高杉:なるほどね。

桑折:「デザインに置き換える」っていうのは良いかもしれないですね。

高杉:うんうん、いいですね。

カカメ_photo_井上嘉和
alter_photo_井上嘉和photo by: 井上嘉和

 - 2015, 俳優のためのダンスワークショップ

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